『妙法蓮華経方便品第二』
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科段
略開三顕一
長行
[真読]
爾時世尊。従三昧安詳而起。告舎利弗。
[訓読]
爾の時に世尊、三昧より安詳として起って、舎利弗に告げたまわく、
寄言歎
◎歎諸仏二智
[真読]
諸仏智慧。甚深無量。其智慧門。難解難入。一切声聞。辟支仏。所不能知。所以者何。仏曾親近。百千万億。無数諸仏。尽行諸仏。無量道法。勇猛精進。名称普聞。成就甚深。未曾有法。随宜所説。意趣解難。
[訓読]
諸仏の智慧は甚深無量なり。其の智慧の門は難解難入なり。一切の声聞・辟支仏の知ること能わざる所なり。所以は何ん、仏曾て百千万億無数の諸仏に親近し、尽くして諸仏の無量の道法を行じ、勇猛精進して、名称普く聞えたまえり。甚深未曾有の法を成就して、宜しきに随って説きたもう所意趣解り難し。
◎歎釋尊二智
[真読]
舎利弗。吾従成仏已来。種種因縁。種種譬喩。広演言教。無数方便。引導衆生。令離諸著。所以者何。如来方便。知見波羅蜜。皆已具足
[訓読]
舎利弗、吾成仏してより已来、種々の因縁・種々の譬喩をもって、広く言教を演べ、無数の方便をもって、衆生を引導して諸の著を離れしむ。所以は何ん、如来は方便・知見波羅蜜皆已に具足せり。
[真読]
舎利弗。如来知見。広大深遠。無量無礙。力。無所畏。禅定。解脱。三昧。深入無際。成就一切。未曾有法。
[訓読]
舎利弗、如来の知見は広大深遠なり。無量・無碍・力・無所畏・禅定・解脱・三昧あって深く無際に入り、一切未曾有の法を成就せり。
絶言歎
◎絶言由
[真読]
舎利弗。如来能種種分別。巧説諸法。言辞柔軟。悦可衆心。舎利弗。取要言之。無量無辺。未曾有法。仏悉成就。
[訓読]
舎利弗、如来は能く種々に分別し巧に諸法を説き言辞柔軟にして、衆の心を悦可せしむ。舎利弗、要を取って之を言わば、無量無辺未曾有の法を、仏悉く成就したまえり。
◎正絶歎
[真読]
止舎利弗。不須復説。所以者何。仏所成就。第一希有。難解之法。唯仏与仏。乃能究尽。諸法実相。
所謂諸法。如是相。如是性。如是体。如是力。如是作。如是因。如是縁。如是果。如是報。如是本末究竟等。
[訓読]
止みなん、舎利弗、復説くべからず。所以は何ん、仏の成就したまえる所は、第一希有難解の法なり。唯仏と仏と乃し能く諸法の実相を究尽したまえり。
所謂諸法の如是相・如是性・如是体・如是力・如是作・如是因・如是縁・如是果・如是報・如是本末究竟等なり。
偈頌
寄言歎
[真読]
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言
世雄不可量 諸天及世人 一切衆生類 無能知仏者
仏力無所畏 解脱諸三昧 及仏諸余法 無能測量者
本従無数仏 具足行諸道 甚深微妙法 難見難可了
於無量億劫 行此諸道已 道場得成果 我已悉知見
[訓読]
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
世雄は量るべからず 諸天及び世人
一切衆生の類 能く仏を知る者なし
仏の力無所畏 解脱諸の三昧
及び仏の諸余の法 能く測量する者なし
本無数の仏に従って 具足して諸道を行じたまえり
甚深微妙の法は 見難く了すべきこと難し
無量億劫に於て 此の諸道を行じ已って
道場にして果を成ずることを得て 我已に悉く知見す
絶言歎
[真読]
如是大果報 種種性相義 我及十方仏 乃能知是事
是法不可示 言辞相寂滅 諸余衆生類 無能得解者
除諸菩薩衆 信力堅固者 諸仏弟子衆 曾供養諸仏
一切漏已尽 住是最後身 如是諸人等 其力所不堪
仮使満世間 皆如舎利弗 尽思共度量 不能測仏智
正使満十方 皆如舎利弗 及余諸弟子 亦満十方刹
尽思共度量 亦復不能知 辟支仏利智 無漏最後身
亦満十方界 其数如竹林 斯等共一心 於億無量劫
欲思仏実智 莫能知少分 新発意菩薩 供養無数仏
了達諸義趣 又能善説法 如稲麻竹葦 十方刹充満
一心以妙智 於恒河沙劫 咸皆共思量 不能知仏智
不退諸菩薩 其数如恒沙 一心共思求 亦復不能知
又告舎利弗 無漏不思議 甚深微妙法 我今已具得
唯我知是相 十方仏亦然
[訓読]
是の如き大果報 種々の性相の義
我及び十方の仏 乃し能く是の事を知しめせり
是の法は示すべからず 言辞の相寂滅せり
諸余の衆生類は 能く得解することあることなし
諸の菩薩衆の 信力堅固なる者をば除く
諸仏の弟子衆の 曾て諸仏を供養し
一切の漏已に尽くして 是の最後身に住せる
是の如き諸人等 其の力堪えざる所なり
仮使世間に満てらん 皆舎利弗の如くにして
思を尽くして共に度量すとも 仏智測ること能わじ
正使十方に満てらん 皆舎利弗の如く
及び余の諸の弟子 亦十方の刹に満てらん
思を尽くして共に度量すとも 亦復知ること能わじ
辟支仏の利智にして 無漏の最後身なる
亦十方界に満ちて 其の数竹林の如くならん
斯れ等共に一心に 億無量劫に於て
仏の実智を思わんと欲すとも 能く少分をも知ることなけん
新発意の菩薩の 無数の仏を供養し
諸の義趣を了達し 又能く法を説かんもの
稲麻竹葦の如くにして 十方の刹に充満せん
一心に妙智を以て 恒河沙劫に於て
咸く皆共に思量すとも 仏智を知ること能わじ
不退の諸の菩薩 其の数恒沙の如くにして
一心に共に思求すとも 亦復知ること能わじ
又舎利弗に告ぐ 無漏不思議の
甚深微妙の法を 我今已に具え得たり
唯我是の相を知れり 十方の仏も亦然なり
略開顕動執生疑(略して開顕し動執生疑す)
◎諸仏顕実 (諸仏実を顕す)
[真読]
舎利弗当知 諸仏語無異 於仏所説法 当生大信力
世尊法久後 要当説真実
[訓読]
舎利弗当に知るべし 諸仏は語異ることなし
仏の所説の法に於て 当に大信力を生ずべし
世尊は法久しゅうして後 要ず当に真実を説きたもうべし
◎釈迦開権 (釈迦権を開く)
[真読]
告諸声聞衆 及求縁覚乗 我令脱苦縛 逮得涅槃者
仏以方便力 示以三乗教 衆生処処著 引之令得出
[訓読]
諸の声聞衆 及び縁覚乗を求むる者に告ぐ
我苦縛を脱し 涅槃を逮得せしめたることは
仏方便力を以て 示すに三乗の教を以てす
衆生処処の著 之を引いて出ずることを得せしめんとなり
騰疑致請 (疑を騰けて請を致す)
叙衆疑 (衆疑を叙す)
◎経家叙 (経家の叙)
[真読]
爾時大衆中。有諸声聞。漏尽阿羅漢。阿若陳如等。千二百人。及発声聞。辟支仏心。比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。各作是念
[訓読]
爾の時に大衆の中に、諸の声聞・漏尽の阿羅漢・阿若・陳如等の千二百人、及び声聞・辟支仏の心を発せる比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷あり。各是の念を作さく、
[解説]
阿羅漢(あらかん) サンスクリット arhan
の音写。応供(おうぐ)と漢訳される。尊敬される人、供養するに値する聖者という意味。小乗仏教の修行者たる声聞(しょうもん)の最高位。
比丘(びく)・比丘尼(びくに)・優婆塞(うばそく)・優婆夷(うばい) 四衆。比丘は男性の出家した僧侶。比丘尼は出家した尼僧。優婆塞は在家の男性信徒。優婆夷は在家の女性信徒。
◎疑仏二智 (仏の二智を疑う)
[真読]
今者世尊。何故慇懃。称歎方便。而作是言。仏所得法。甚深難解。有所言説。意趣難知。一切声聞。辟支仏。所不能及。
[訓読]
今者世尊何が故ぞ慇懃に方便を称歎して、是の言を作したもう。仏の得たまえる所の法は甚深にして解り難く、言説したもう所あるは意趣知り難し。一切の声聞・辟支仏の及ぶこと能わざる所なり。
◎疑己所得 (己の所得を疑う)
[真読]
仏説一解脱義。我等亦得此法。到於涅槃。而今不知。是義所趣。
[訓読]
仏一解脱の義を説きたまいしかば、我等も亦此の法を得て涅槃に到れり。而るに今是の義の所趣を知らず。
正請決 (正しく請を決す)
第一請
[真読]
爾時舎利弗。知四衆心疑。自亦未了。而白仏言。世尊。何因何縁。慇懃称歎。諸仏第一方便。甚深微妙。難解之法。我自昔来。未曾従仏。聞如是説。今者四衆。咸皆有疑。唯願世尊。敷演斯事。世尊何故。慇懃称歎。甚深微妙。難解之法。
[訓読]
爾の時に舎利弗、四衆の心の疑を知り、自らも亦未だ了らずして、仏に白して言さく、
世尊何の因・何の縁あってか、慇懃に諸仏第一の方便甚深微妙難解の法を称歎したもう。我昔より来、未だ曾て仏に従って是の如き説を聞きたてまつらず。今者四衆咸く皆疑あり。唯願わくは世尊斯の事を敷演したまえ。世尊、何が故ぞ慇懃に甚深微妙難解の法を称歎したもう。
[真読]
爾時舎利弗。欲重宣此義。而説偈言 慧日大聖尊 久乃説是法 自説得如是 力無畏三昧
禅定解脱等 不可思議法 道場所得法 無能発問者
我意難可測 亦無能問者 無問而自説 称歎所行道
智慧甚微妙 諸仏之所得 無漏諸羅漢 及求涅槃者
今皆堕疑網 仏何故説是 其求縁覚者 比丘比丘尼
諸天龍鬼神 及乾闥婆等 相視懐猶豫 瞻仰両足尊
是事為云何 願仏為解説 於諸声聞衆 仏説我第一
我今於自智 疑惑不能了 為是究竟法 為是所行道
仏口所生子 合掌瞻仰待 願出微妙音 時為如実説
諸天龍神等 其数如恒沙 求仏諸菩薩 大数有八万
又諸万億国 転輪聖王至 合掌以敬心 欲聞具足道
[訓読]
爾の時に舎利弗、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく、
慧日大聖尊 久しくあって乃し是の法を説きたもう
自ら是の如き 力無畏三昧
禅定解脱等の 不可思議の法を得たりと説きたもう
道場所得の法は 能く問を発す者なし
我が意測るべきこと難し 亦能く問う者なし
問うことなけれども而も自ら説いて 所行の道を称歎したもう
智慧甚だ微妙にして 諸仏の得たまえる所なり
無漏の諸の羅漢 及び涅槃を求むる者
今皆疑網に堕しぬ 仏何が故ぞ是れを説きたもう
其の縁覚を求むる者 比丘比丘尼
諸の天龍鬼神 及び乾闥婆等
相視て猶豫を懐き 両足尊を瞻仰す
是の事云何なるべき 願わくは仏為に解説したまえ
諸の声聞衆に於て 仏我を第一なりと説きたもう
我今自ら智に於て 疑惑して了ること能わず
是れ究竟の法とや為ん 是れ所行の道とや為ん
仏口所生の子 合掌瞻仰して待ちたてまつる
願わくは微妙の音を出して 時に為に実の如く説きたまえ
諸の天龍神等 其の数恒沙の如し
仏を求むる諸の菩薩 大数八万あり
又諸の万億国の 転輪聖王の至れる
合掌し敬心を以て 具足の道を聞きたてまつらんと欲す
第二止
[真読]
爾時仏告。舎利弗。止止。復説。若説是事。一切世間。諸天及人。皆当驚疑。
[訓読]
爾の時に仏、舎利弗にて告げたまわく、止みなん止みなん復説くべからず。若し是の事を説かば、一切世間の諸天及び人、皆当に驚疑すべし。
第二請
[真読]
舎利弗。重白仏言。世尊。唯願説之。唯願説之。所以者何。是会無数。百千万億阿僧祇衆生。曾見諸仏。諸根猛利。智慧明了。聞仏所説。則能敬信。爾時舎利弗。欲重宣此義。而説偈言
法王無上尊 唯説願勿慮 是会無量衆 有能敬信者
[訓読]
舎利弗、重ねて仏に白して言さく、世尊、唯願わくは之を説きたまえ、唯願わくは之を説きたまえ。所以は何ん、是の会の無数百千万億阿僧祇の衆生は、曾て諸仏を見たてまつり、諸根猛利にして、智慧明了なり。仏の所説を聞きたてまつらば則ち能く敬信せん。
爾の時に舎利弗、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく、
法王無上尊 唯説きたまえ願わくは慮したもうことなかれ
是の会の無量の衆は 能く敬信すべき者あり
第三止
[真読]
仏復止舎利弗。若説是事。一切世間。天人阿修羅。皆当驚疑。増上慢比丘。将墜大坑。爾時世尊。重説偈言
止止不須説 我法妙難思 諸増上慢者 聞必不敬信
[訓読]
仏復、止みなん舎利弗、若し是の事を説かば、一切世間の天・人・阿修羅、皆当に驚疑すべし。増上慢の比丘は将に大坑に墜つべし。
爾の時に世尊、重ねて偈を説いて言わく、
止みなん止みなん説くべからず 我が法は妙にして思い難し
諸の増上慢の者は 聞いて必ず敬信せじ
第三請
[真読]
爾時舎利弗。重白仏言。世尊。唯願説之。唯願説之。今此会中。如我等比。百千万億。世世已曾。従仏受化。如此人等。必能敬信。長夜安穏。多所饒益。爾時舎利弗。欲重宣此義。而説偈言
無上両足尊 願説第一法 我為仏長子 唯垂分別説
是会無量衆 能敬信此法 仏已曾世世 教化如是等
皆一心合掌 欲聴受仏語 我等千二百 及余求仏者
願為此衆故 唯垂分別説 是等聞此法 則生大歓喜
爾の時に舎利弗、重ねて仏に白して言さく、
世尊、唯願わくは之を説きたまえ、唯願わくは之を説きたまえ。今此の会中の我が如き等比百千万億なるは、世世に已に曾て仏に従いたてまつりて化を受けたり。此の如き人等必ず能く敬信し、長夜安穏にして饒益する所多からん。
爾の時に舎利弗、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言さく、
無上両足尊 願わくは第一の法を説きたまえ
我は為れ仏の長子なり 唯分別し説くことを垂れたまえ
是の会の無量の衆は 能く此の法を敬信せん
仏已に曾て世世に 是の如き等を教化したまえり
皆一心に合掌して 仏語を聴受せんと欲す
我等千二百 及び余の仏を求むる者あり
願わくは此の衆の為の故に 唯分別し説くことを垂れたまえ
是れ等此の法を聞きたてまつらば 則ち大歓喜を生ずべし
広開三顕一
長行
許説
[真読]
爾時世尊。告舎利弗。汝已慇懃三請。豈得不説。汝今諦聴。善思念之。吾当為汝。分別解説。
[訓読]
爾の時に世尊、舎利弗に告げたまわく、
汝已に慇懃に三たび請じつ、豈に説かざることを得んや。汝今諦かに聴き、善く之を思念せよ。吾当に汝が為に分別し解説すべし。
遺去慢衆 (慢衆を遺去す)
[真読]
説此語時。会中有比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。五千人等。即従座起。礼仏而退。所以者何。此輩罪根深重。及増上慢。未得謂得。未証謂証。有如此失。是以不住。世尊黙然。而不制止。爾時仏告。舎利弗。我今此衆。無復枝葉。純有貞実。舎利弗。如是増上慢人。退亦佳矣。汝今善聴。当為汝説。
[訓読]
此の語を説きたもう時、会中に比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷、五千人等あり。即ち座より起って仏を礼して退きぬ。所以は何ん、此の輩は罪根深重に、及び増上慢にして、未だ得ざるを得たりと謂い、未だ証せざるを証せりと謂えり。此の如き失あり、是を以て住せず。世尊黙然として制止したまわず。爾の時に仏、舎利弗に告げたまわく、
我が今此の衆は復枝葉なく、純ら貞実のみあり。舎利弗、是の如き増上慢の人は、退くも亦佳し。汝今善く聴け、当に汝が為に説くべし。
[解説]
比丘(びく)・比丘尼(びくに)・優婆塞(うばそく)・優婆夷(うばい) 四衆。比丘は男性の出家した僧侶。比丘尼は出家した尼僧。優婆塞は在家の男性信徒。優婆夷は在家の女性信徒。
受旨 (旨を受く)
[真読]
舎利弗言。唯然世尊。願楽欲聞。
[訓読]
舎利弗の言さく、
唯然世尊、願楽わくは聞きたてまつらんと欲す。
五仏章
第一諸仏章
◎歎法希有 (法の希有を歎ず)
[真読]
仏告舎利弗。如是妙法。諸仏如来。時乃説之。如優曇鉢華。時一現耳。
[訓読]
仏舎利弗に告げたまわく、
是の如き妙法は、諸仏如来、時に乃し之を説きたもう。優曇鉢華の時に一たび現ずるが如きのみ。
◎説無虚妄 (説に虚妄無し)
[真読]
舎利弗。汝等当信。仏之所説。言不虚妄。
[訓読]
舎利弗、汝等当に信ずべし、仏の所説は言虚妄ならず。
◎聞方便 (方便を開く)
[真読]
舎利弗。諸仏随宜説法。意趣難解。所以者何。我以無数方便。種種因縁。譬喩言辞。演説諸法。
[訓読]
舎利弗、諸仏の随宜の説法は意趣解し難し。所以は何ん、我無数の方便・種々の因縁・譬喩・言辞を以て諸法を演説す。
◎顕真実 (真実を顕す)
[真読]
是法非思量分別。之所能解。唯有諸仏。乃能知之。
[訓読]
是の法は思量分別の能く解する所に非ず。唯諸仏のみましまして、乃し能く之を知しめせり。
◎標出世本懐 (出世の本懐を標す)
[真読]
所以者何。諸仏世尊。唯以一大事因縁故。出現於世。舎利弗。云何名諸仏世尊。唯以一大事因縁故。出現於世。
[訓読]
所以は何ん、諸仏世尊は、唯一大事の因縁を以ての故に世に出現したもう。舎利弗、云何なるをか、諸仏世尊は唯一大事の因縁を以ての故に世に出現したもうと名くる。
◎正釈真実 (正しく真実を釈す)
[真読]
諸仏世尊。欲令衆生。開仏知見。使得清浄故。出現於世。欲示衆生。仏知見故。出現於世。欲令衆生。悟仏知見故。出現於世。欲令衆生。入仏知見道故。出現於世。舎利弗。是為諸仏。唯以一大事因縁故。出現於世。
[訓読]
諸仏世尊は、衆生をして仏知見を開かしめ清浄なることを得せしめんと欲するが故に、世に出現したもう。衆生をして仏知見を示さんと欲するが故に、世に出現したもう。衆生をして仏知見を悟らせめんと欲するが故に、世に出現したもう。衆生をして仏知見の道に入らしめんと欲するが故に、世に出現したもう。舎利弗、是れを諸仏は唯一大事因縁を以ての故に世に出現したもうとなづく。
[真読]
仏告舎利弗。諸仏如来。但教化菩薩。諸有所作。常為一事。唯以仏之知見。示悟衆生。舎利弗。如来。但以一仏乗故。為衆生説法。無有余乗。若二。若三。
[訓読]
仏、舎利弗に告げたまわく、 諸仏如来は但菩薩を教化したもう。諸の所作あるは常に一事の為なり。唯仏の知見を以て衆生に示悟したまわんとなり。舎利弗、如来は但一仏乗を以ての故に、衆生の為に法を説きたもう。余乗の若しは二若しは三あることなし。
◎結諸仏同道 (正しく真実を釈す)
[真読]
舎利弗。一切十方諸仏。法亦如是。
[訓読]
舎利弗一切十方の諸仏の法も亦是の如し。
第二過去仏章
[真読]
舎利弗。過去諸仏。以無量無数方便。種種因縁。譬喩言辞。而為衆生。演説諸法。是法皆為。一仏乗故。是諸衆生。従諸仏聞法。究竟皆得。一切種智。
[訓読]
舎利弗、過去の諸仏も、無量無数の方便・種々の因縁・譬喩・言辞を以て、衆生の為に諸法を演説したもう。是の法も皆一仏乗の為の故なり。是の諸の衆生の諸仏に従いたてまつって法を聞きしも、究竟して皆一切種智を得たり。
第三未来仏章
[真読]
舎利弗。未来諸仏。出当於世。亦以無量。無数方便。種種因縁。譬喩言辞。而為衆生。演説諸法。是法皆為。一仏乗故。是諸衆生。従仏聞法。究竟皆得。一切種智。
[訓読]
舎利弗、未来の諸仏の当に世に出でたもうべきも、亦無量無数の方便・種々の因縁・譬喩・言辞を以て、衆生の為に諸法を演説したまわん。是の法も皆一仏乗の為の故なり。是の諸の衆生の仏に従いたてまつって法を聞かんも、究竟して皆一切種智を得べし。
第四現在仏章
[真読]
舎利弗。現在十方。無量百千万億。仏土中。諸仏世尊。多所饒益。安楽衆生。是諸仏。亦以無量。無数方便。種種因縁。譬喩言辞。而為衆生。演説諸法。是法皆為。一仏乗故。是諸衆生。従仏聞法。究竟皆得。一切種智。舎利弗。是諸仏。但教化菩薩。欲以仏之知見。示衆生故。欲以仏之知見。悟衆生故。欲令衆生。入仏知見道故。
[訓読]
舎利弗、現在十方の無量百千万億の仏土の中の諸仏世尊の、衆生を饒益し安楽ならしめたもう所多き、是の諸仏も亦無量無数の方便・種々の因縁・譬喩・言辞を以て、衆生の為に諸法を演説したもう。是の法も皆一仏乗の為の故なり。是の諸の衆生の仏に従いたてまつりて法を聞けるも、究竟して皆一切種智を得。舎利弗、是の諸仏は但菩薩を教化したもう。仏の知見を以て衆生に示さんと欲するが故に、仏の知見を以て衆生に悟らしめんと欲するが故に、衆生をして仏の知見の道に入らしめんと欲するが故なり。
第五釈迦仏章
◎開権 (権を開く)
[真読]
舎利弗。我今亦復如是。知諸衆生。有種種欲。深心所著。随其本性。以種種因縁。譬喩言辞。方便力故。而為説法。
[訓読]
舎利弗、我も今亦復是の如し。諸の衆生に種々の欲・深心の所著あることを知って、其の本性に随って、種々の因縁・譬喩・言辞・方便力をを以ての故に、而も為に法を説く。
◎顕実 (実を開く)
[真読]
舎利弗。如此皆為。得一仏乗。一切種智故。
[訓読]
舎利弗、此の如きは皆一仏乗の一切種智を得せしめんが為の故なり。
◎挙濁釈権 (濁を挙げて権を釈す)
[真読]
舎利弗。十方世界中。尚無二乗。何況有三。舎利弗。諸仏出於。五濁悪世。所謂劫濁。煩悩濁。衆生濁。見濁。命濁。如是。舎利弗。劫濁乱時。衆生垢重。慳貪嫉妬。成就諸不善根故。諸仏以方便力。於一仏乗。分別三説。
[訓読]
舎利弗、十方世界の中には尚お二乗なし、何に況んや三あらんや。舎利弗、諸仏は五濁の悪世に出でたもう。所謂劫濁・煩悩濁・衆生濁・見濁・命濁なり。是の如し、舎利弗。劫の濁乱の時は、衆生垢重く慳貪嫉妬にして、諸の不善根を成就するが故に、諸仏方便力を以て、一仏乗に於て分別して三と説きたもう。
〓偽敦信 (偽を〓びて信を敦む)
[真読]
舎利弗。若我弟子。自謂阿羅漢。辟支仏者。不聞不知。諸仏如来。但教化菩薩事。此非仏弟子。非阿羅漢。非辟支仏。又舎利弗。是諸比丘。比丘尼。自謂已得。阿羅漢。是最後身。究竟涅槃。便不復志求。阿耨多羅三藐三菩提。当知此輩。皆是増上慢人。所以者何。若有比丘。実得阿羅漢。若不信此法。無有是処。
[訓読]
舎利弗、若し我が弟子、自ら阿羅漢・辟支仏なりと謂わん者、諸仏如来の但菩薩を教化したもう事を聞かず知らずんば、此れ仏弟子に非ず、阿羅漢に非ず、辟支仏に非ず。又舎利弗、是の諸の比丘・比丘尼、自ら已に阿羅漢を得たり、是れ最後身なり、究竟の涅槃なりと謂うて、便ち復阿耨多羅三藐三菩提を志求せざらん。当に知るべし、此の輩は皆是れ増上慢の人なり。所以は何ん、若し比丘の実に阿羅漢を得たる有って、若し此の法を信ぜずといわば、是の処あることなけん。
[解説]
阿羅漢(あらかん) サンスクリット arhan
の音写。応供(おうぐ)と漢訳される。尊敬される人、供養するに値する聖者という意味。小乗仏教の修行者たる声聞(しょうもん)の最高位。
阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい) 最高の正しい悟りの意味。サンスクリット
anuttara samyaksambodhih の音写。阿耨多羅(あのくたら anuttara)は「無上の」という意味。三藐(さんみゃく
samyak)は「正しい」の意味。三菩提(さんぼだい sambodhih)は「悟り」の意味。
[真読]
除仏滅度後。現前無仏。所以者何。仏滅度後。如是等経。受持読誦。解其義者。是人難得。若遇余仏。於此法中。便得決了。舎利弗。汝等当。一心信解。受持仏語。諸仏如来。言無虚妄。無有余乗。唯一仏乗。
[訓読]
仏の滅度の後、現前に仏なからんをば除く、所以は何ん、仏の滅度の後に、是の如き等の経を受持し読誦し其の義を解せん者、是の人得難ければなり。若し余仏に遇わば此の法の中に於て便ち決了することを得ん。舎利弗、汝等当に一心に信解し仏語を受持すべし。諸仏如来は言虚妄なし。余乗あることなく唯一仏乗のみなり。
偈頌
[真読]
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言
[訓読]
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
許答
◎五千退席 (五千の退席)
[真読]
比丘比丘尼 有懐増上慢 優婆塞我慢 優婆夷不信
如是四衆等 其数有五千 不自見其過 於戒有欠漏
護惜其瑕疵 是小智出已 衆中之糟糠 仏威徳故去
斯人尠福徳 不堪受是法
[訓読]
比丘比丘尼の 増上慢を懐くことある
優婆塞の我慢なる 優婆夷の不信なる
是の如き四衆等 其の数五千あり
自ら其の過を見ず 戒に於て欠漏有って
其の瑕疵を護り惜む 是の小智は已に出でぬ
衆中の糟糠なり 仏の威徳の故に去りぬ
斯の人は福徳尠なくして 是の法を受くるに堪えず
◎衆清浄 (衆の清浄)
[真読]
此衆無枝葉 唯有諸貞実 舎利弗善聴 諸仏所得法
[訓読]
此の衆は枝葉なし 唯諸の貞実のみあり
◎誡許 (誡め許す)
[真読]
舎利弗善聴
[訓読]
舎利弗善く聴け
五仏章
第一諸仏章
◎施権 (権を施す)
[真読]
諸仏所得法 無量方便力 而為衆生説 衆生心所念
種種所行道 若干諸欲性 先世善悪業 仏悉知是已
以諸縁譬喩 言辞方便力 令一切歓喜 或説修多羅
伽陀及本事 本生未曾有 亦説於因縁 譬喩竝祇夜
優婆提舎経 鈍根楽小法 貧著於生死 於諸無量仏
不行深妙道 衆苦所悩乱 為是説涅槃
[訓読]
諸仏所得の法は
無量の方便力をもって 衆生の為に説きたもう
衆生の心の所念 種々の所行の道
若干の諸の欲性 先世の善悪の業
仏悉く是れを知しめし已って 諸の縁譬喩
言辞方便力を以て 一切をして歓喜せしめたもう
或は修多羅 伽陀及び本事
本生未曾有を説き 亦因縁
譬喩竝に祇夜 優婆提舎経を説きたもう
鈍根にして小法を楽い 生死に貧著し
諸の無量の仏に於て 深妙の道を行ぜずして
衆苦に悩乱せらる 是れが為に涅槃を説きたもう
◎顕実 (実を顕す)
○理一
[真読]
我設是方便 令得入仏慧 未曾説汝等 当得成仏道
所以未曾説 説時未至故 今正是其時 決定説大乗
我此九部法 随順衆生説 入大乗為本 以故説是経
[訓読]
我是の方便を設けて 仏慧に入ることを得せしむ
未だ曾て汝等 当に仏道を成ずることを得べしと説かず
未だ曾て説かざる所以は 説時未だ至らざるが故なり
今正しく是れ其の時なり 決定して大乗を説く
我が此の九部の法は 衆生に随順して説く
大乗に入るに為れ本なり 故を以て是の経を説く
○人一
[真読]
有仏子心浄 柔軟亦利根 無量諸仏所 而行深妙道
為此諸仏子 説是大乗経 我記如是人 来世成仏道
以深心念仏 修持浄戒故 此等聞得仏 大喜充ェ身
仏知彼心行 故為説大乗 声聞若菩薩 聞我所説法
乃至一偈於 皆成仏無疑
[訓読]
仏子の心浄く 柔軟に亦利根にして
無量の諸仏の所にして 深妙の道を行ずるあり
此の諸の仏子の為に 是の大乗経を説く
我是の如き人 来世に仏道を成ぜんと記す
深心に仏を念じ 浄戒を修持するを以ての故に
此れ等仏を得べしと聞いて 大喜身に充遍す
仏彼の心行を知れり 故に為に大乗を説く
声聞若しは菩薩 我が所説の法を聞くこと
乃至一偈に於てもせば 皆成仏せんこと疑なし
○教一
[真読]
十方仏土中 唯有一乗法 無二亦無三 除仏方便説
但以仮名字 引導於衆生 説仏智慧故
[訓読]
十方仏土の中には 唯一乗の法のみあり
二なく亦三なし 仏の方便の説をば除く
但仮の名字を以て 衆生を引導したもう
仏の智慧を説かんが故なり
○行一
[真読]
諸仏出於世 唯此一事実 余二則非真 終不以小乗
衆生於済度 仏自住大乗 如其所得法 定慧力荘厳
以此度衆生 自証無上道 大乗平等法 若以小乗化
乃至於一人 我則堕慳貪 此事為不可
[訓読]
諸仏世に出でたもうには
唯此の一事のみ実なり 余の二は則ち真に非ず
終に小乗を以て 衆生を済度したまわず
仏は自ら大乗に住したまえり 其の所得の法の如き
定慧の力荘厳せり 此れを以て衆生を度したもう
自ら無上道 大乗平等の法を証して
若し小乗を以て化すること 乃至一人に於てもせば
我則ち慳貪に堕せん 此の事は為めて不可なり
◎勧信 (信を勧む)
[真読]
若人信帰仏 如来不欺誑 亦無貧嫉意 断諸法中悪
故仏於十方 而独無所畏 我以相厳身 光明照世間
無量衆所尊 為説実相印 舎利弗当知 我本誓願立
欲令一切衆 如我等無異 如我昔所願 今者已満足
化一切衆生 皆令入仏道
[訓読]
若し人仏に信帰すれば 如来欺誑したまわず
亦貧嫉の意なし 諸法の中の悪を断じたまえり
故に仏十方に於て 独畏るる所なし
我相を以て身を厳り 光明世間を照す
無量の衆に尊まれて 為に実相の印を説く
舎利弗当に知るべし 我本誓願を立てて
一切の衆をして 我が如く等しくして異ることなからしめんと欲しき
我が昔の所願の如き 今者已に満足しぬ
一切衆生を化して 皆仏道に入らしむ
◎五濁
[真読]
若我遇衆生 尽教以仏道 無智者錯乱 迷惑不受教
我知此衆生 未曾修善本 堅著於五欲 痴愛故生悩
以諸欲因縁 墜堕三悪道 輪廻六趣中 備受諸苦毒
受胎之微形 世世常増長 薄徳少福人 衆苦所逼迫
入邪見稠林 若有若無等 依止此諸見 具足六十二
深著虚妄法 堅受不可捨 我慢自矜高 諂曲心不実
於千万億劫 不聞仏名字 亦不聞正法 如是人難度
[訓読]
若し我衆生に遇えば 尽く教うるに仏道を以てす
無智の者は錯乱し 迷惑して教を受けず
我知んぬ此の衆生は 未だ曾て善本を修せず
堅く五欲に著して 痴愛の故に悩を生ず
諸欲の因縁を以て 三悪道に墜堕し
六趣の中に輪廻して 備さに諸の苦毒を受く
受胎の微形 世世に常に増長し
薄徳少福の人として 衆苦に逼迫せらる
邪見の稠林 若しは有若しは無等に入り
此の諸見に依止して 六十二を具足す
深く虚妄の法に著して 堅く受けて捨つべからず
我慢にして自ら矜高し 諂曲にして心不実なり
千万億劫に於て 仏の名字を聞かず
亦正法を聞かず 是の如き人は度し難し
◎不虚 (※ この科段については筆者の推定)
[真読]
是故舎利弗 我為設方便 説諸尽苦道 示之以涅槃
我雖説涅槃 是亦非真滅 諸法従本来 常自寂滅相
仏子道行已 来世得作仏 我有方便力 開示三乗法
一切諸世尊 皆説一乗道 今此諸大衆 皆応除疑惑
諸仏語無異 唯一無二乗
[訓読]
是の故に舎利弗 我為に方便を設けて
諸の尽苦の道を説き 示すに涅槃を以てす
我涅槃を説くと雖も 是れ亦真の滅に非ず
諸法は本より来 常に自ら寂滅の相なり
仏子道を行じ已って 来世に作仏することを得ん
我方便力あって 三乗の法を開示す
一切の諸の世尊も 皆一乗の道を説きたもう
今此の諸の大衆 皆疑惑を除くべし
諸仏は語異ることなし 唯一にして二乗なし
第二過去仏章
◎開三 (三を開く)
[真読]
過去無数劫 無量滅度仏 百千万億種 其数不可量
如是諸世尊 種種縁譬喩 無数方便力 演説諸法相
[訓読]
過去無数劫の 無量の滅度の仏
百千万億種にして 其の数量るべからず
是の如き諸の世尊も 種々の縁譬喩
無数の方便力をもって 諸法の相を演説したまいき
◎顕一 (一を顕す)
○略
[真読]
是諸世尊等 皆説一乗法 化無量衆生 令入於仏道
[訓読]
是の諸の世尊等も 皆一乗の法を説き
無量の衆生を化して 仏道に入らしめたまいき
○広
△聡明
[真読]
又諸大聖主 知一切世間 天人群生類 深心之所欲
更以異方便 助顕第一義
[訓読]
又諸の大聖主 一切世間の
天人群生類 深心の所欲を知しめして
更に異の方便を以て 第一義を助顕したまいき
△別約五乗顕
×菩薩開会
[真読]
若有衆生類 値諸過去仏 若聞法布施 或持戒忍辱
精進禅智等 種種修福徳 如是諸人等 皆已成仏道
[訓読]
若し衆生類あって 諸の過去の仏に値いたてまつって
若しは法を聞いて布施し 或は持戒忍辱
精進禅智等 種々に福徳を修せし
是の如き諸人等 皆已に仏道を成じき
×二乗開会
[真読]
諸仏滅度已 若人善軟心 如是諸衆生 皆已成仏道
[訓読]
諸仏滅度し已って 若し人善軟の心ありし
是の如き諸の衆生 皆已に仏道を成じき
×人天開会
[真読]
諸仏滅度已 供養舎利者 起万億種塔 金銀及頗黎
ィゥ与碼碯 ォ瑰瑠璃珠 清浄広厳飾 荘校於諸塔
或有起石廟 栴檀及沈水 木樒竝余材 甎瓦泥土等
若於曠野中 積土成仏廟 乃至童子戯 聚沙為仏塔
如是諸人等 皆已成仏道
[訓読]
諸仏滅度し已って 舎利を供養する者
万億種の塔を起てて 金銀及び頗黎
ィゥと碼碯 ォ瑰瑠璃珠とをもって
清浄に広く厳飾し 諸の塔を荘校し
或は石廟を起て 栴檀及び沈水
木樒竝に余の材 甎瓦泥土等をもってするあり
若しは曠野の中に於て 土を積んで仏廟を成し
乃至童子の戲に 沙を聚めて仏塔と為る
是の如き諸人等 皆已に仏道を成じき
[真読]
若人為仏故 建立諸形像 刻彫成衆相 皆已成仏道
[訓読]
若し人仏の為の故に 諸の形像を建立し
刻彫して衆相を成せる 皆已に仏道を成じき
[真読]
或以七宝成 鍮鉐赤白銅 白鑞及鉛錫 鉄木及与泥
或以膠漆布 厳飾作仏像 如是諸人等 皆已成仏道
[訓読]
或は七宝を以て成し 鍮鉐赤白銅
白鑞及び鉛錫 鉄木及与泥
或は膠漆布を以て 厳飾して仏像を作れる
是の如き諸人等 皆已に仏道を成じき
[真読]
綵画作仏像 百福荘厳相 自作若使人 皆已成仏道
[訓読]
綵画して仏像の 百福荘厳の相を作すこと
自らも作し若しは人をしてもせる 皆已に仏道を成じき
[真読]
乃至童子戯 若艸木及筆 或以指爪甲 而画作仏像
如是諸人等 漸漸積功徳 具足大悲心 皆已成仏道
但化諸菩薩 度脱無量衆
[訓読]
乃至童子の戲に 若しは艸木及び筆
或は指の爪甲を以て 画いて仏像を作せる
是の如き諸人等 漸漸に功徳を積み
大悲心を具足して 皆已に仏道を成じて
但諸の菩薩を化し 無量の衆を度脱しき
[真読]
若人於塔廟 宝像及画像 以華香旛蓋 敬心而供養
若使人作楽 撃鼓吹角貝 簫笛琴箜篌 琵琶鐃銅ャ
如是衆妙音 尽持以供養 或以歓喜心 歌唄頌仏徳
乃至一小音 皆已成仏道
[訓読]
若し人塔廟 宝像及び画像において
華香旛蓋を以て 敬心にして供養し
若しは人をして楽を作さしめ 鼓を撃ち角貝を吹き
簫笛琴箜篌 琵琶鐃銅ャ
是の如き衆の妙音 尽く持って以て供養し
或は歓喜の心を以て 歌唄して仏徳を頌し
乃至一小音をもってせし 皆已に仏道を成じき
[真読]
若人散乱心 乃至以一華 供養於画像 漸見無数仏
或有人礼拝 或復但合掌 乃至挙一手 或復少低頭
以此供養像 漸見無量仏 自成無上道 広度無数衆
入無余涅槃 如薪尽火滅
[訓読]
若し人散乱の心に 乃至一華を以て
画像に供養せし 漸く無数の仏を見たてまつりき
或は人あって礼拝し 或は復但合掌し
乃至一手を挙げ 或は復少し頭を低れて
此れを以て像に供養せし 漸く無量の仏を見たてまつり
自ら無上道を成じて 広く無数の衆を度し
無余涅槃に入ること 薪尽きて火の滅ゆるが如くなりき
[真読]
若人散乱心 入於塔廟中 一称南無仏 皆已成仏道
[訓読]
若し人の散乱の心に 塔廟の中に入って
一たび南無仏と称せし 皆已に仏道を成じき
[真読]
於諸過去仏 現在或滅後 若有聞是法 皆已成仏道
[訓読]
諸の過去の仏の 現在或は滅後に於て
若し是の法を聞くこと有りし 皆已に仏道を成じき
第三未来仏章
◎開三 (三を開く)
[真読]
未来諸世尊 其数無有量 是諸如来等 亦方便説法
一切諸如来 以無量方便
[訓読]
未来の諸の世尊 其の数量あることなけん
是の諸の如来等も 亦方便して法を説きたまわん
一切の諸の如来 無量の方便を以て
◎顕一 (一を顕す)
人一
[真読]
度脱諸衆生 入仏無漏智 若有聞法者 無一不成仏
[訓読]
諸の衆生を度脱して 仏の無漏智に入れたまわん
若し法を聞くことあらん者は 一りとして成仏せずということなけん
行一
[真読]
諸仏本誓願 我所行仏道 普欲令衆生 亦同得此道
[訓読]
諸仏の本誓願は 我が所行の仏道を
普く衆生をして 亦同じく此の道を得せしめんと欲す
教一
[真読]
未来世諸仏 雖説百千億 無数諸法門 其実為一乗
諸仏両足尊 知法常無性 仏種縁従起 是故説一乗
[訓読]
未来世の諸仏 百千億
無数の諸の法門を説きたもうと雖も 其れ実には一乗の為なり
諸仏両足尊 法は常に無性なり
仏種は縁に従って起ると知しめす 是の故に一乗を説きたまわん
理一
[真読]
是法住法位 世間相常住 於道場知已 導師方便説
[訓読]
是の法は法位に住して 世間の相常住なり
道場に於て知しめし已って 導師方便して説きたまわん
第四現在仏章
◎標施化意 (施化の意を標す)
[真読]
天人所供養 現在十方仏 其数如恒沙 出現於世間
安穏衆生故 亦説如是法
[訓読]
天人の供養したてまつる所の 現在十方の仏
其の数恒沙の如く 世間に出現したもうも
衆生を安穏ならしめんが故に 亦是の如き法を説きたもう
◎顕実 (実を顕す)
[真読]
知第一寂滅 以方便力故 雖示種種道 其実為仏乗
[訓読]
第一の寂滅を知しめして 方便力を以ての故に
種々の道を示すと雖も 其れ実には仏乗の為なり
◎開権 (権を開く)
[真読]
知衆生諸行 深心之所念 過去所習業 欲性精進力
及諸根利鈍 以種種因縁 譬喩亦言辞 随応方便説
[訓読]
衆生の諸行 深心の所念
過去所習の業 欲性精進力
及び諸根の利鈍を知しめして 種々の因縁
譬喩亦言辞を以て 応に随って方便して説きたもう
第五釈迦仏章
◎略頌開顕 (開顕を略頌す)
[真読]
今我亦如是 安穏衆生故 以種種法門 宣示於仏道
我以智慧力 知衆生性欲 方便説諸法 皆令得歓喜
[訓読]
今我も亦是の如し 衆生を安穏ならしめんが故に
種々の法門を以て 仏道を宣示す
我智慧力を以て 衆生の性欲を知って
方便して諸法を説いて 皆歓喜することを得せしむ
◎広頌開顕 (開顕を広頌す)
○五濁開三
[真読]
舎利弗当知 我以仏眼観 見六道衆生 貧窮無福慧
入生死険道 相続苦不断 深五於欲著 如ュ牛愛尾
以貪愛自蔽 盲瞑無所見 不求大勢仏 及与断苦法
深入諸邪見 以苦欲捨苦 為是衆生故 而起大悲心
[訓読]
舎利弗当に知るべし 我仏眼を以て観じて
六道の衆生を見るに 貧窮にして福慧なし
生死の険道に入って 相続して苦断えず
深く五欲に著すること ュ牛の尾を愛するが如し
貪愛を以て自ら蔽い 盲瞑にして見る所なし
大勢の仏 及び断苦の法を求めず
深く諸の邪見に入って 苦を以て苦を捨てんと欲す
是の衆生の為の故に 而も大悲心を起しき
○施化方便
△念用大化不得
[真読]
我始坐道場 観樹亦経行 於三七日中 思惟如是事
我所得智慧 微妙最第一 衆生諸根鈍 著楽痴所盲
如斯之等類 云何而可度
[訓読]
我始め道場に坐し 樹を観じ亦経行して
三七日の中に於て 是の如き事を思惟しき
我が所得の智慧は 微妙にして最も第一なり
衆生の諸根鈍にして 楽に著し痴に盲いられたり
斯の如きの等類 云何して度すべきと
[真読]
爾時諸梵王 及諸天帝釈 護世四天王 及大自在天
竝余諸天衆 眷属百千万 恭敬合掌礼 請我転法輪
我即自思惟 若但讃仏乗 衆生没在苦 不能信是法
破法不信故 墜於三悪道 我寧不説法 疾入於涅槃
[訓読]
爾の時に諸の梵王 及び諸の天帝釈
護世四天王 及び大自在天
竝に余の諸の天衆 眷属百千万
恭敬合掌し礼して 我に転法輪を請す
我即ち自ら思惟すらく 若し但仏乗を讃めば
衆生苦に没在し 是の法を信ずること能わじ
法を破して信ぜざるが故に 三悪道に墜ちなん
我寧ろ法を説かずとも 疾く涅槃にや入りなん
△念同諸仏用権称宣
[真読]
尋念過去仏 所行方便力 我今所得道 亦応説三乗
作是思惟時 十方仏皆現 梵音慰諭我 善哉釈迦文
第一之導師 得是無上法 随諸一切仏 而用方便力
我等亦皆得 最妙第一法 為諸衆生類 分別説三乗
少智楽小法 不自信作仏 是故以方便 分別説諸果
雖復説三乗 但為教菩薩 舎利弗当知 我聞聖師子
深浄微妙音 喜称南無仏 復作如是念 我出濁悪世
如諸仏所説 我亦随順行 思惟是事已 即趣波羅奈
諸法寂滅相 不可以言宣 以方便力故 為五比丘説
是名転法輪 便有涅槃音 及以阿羅漢 法僧差別名
従久遠劫来 讃示涅槃法 生死苦永尽 我常如是説
[訓読]
尋いで過去の仏の 所行の方便力を念うに
我が今得る所の道も 亦三乗と説くべし
是の思惟を作す時 十方の仏皆現じて
梵音をもって我を慰諭したもう 善哉釈迦文
第一の導師 是の無上の法を得たまえども
諸の一切の仏に随って 方便力を用いたもう
我等も亦皆 最妙第一の法を得れども
諸の衆生類の為に 分別して三乗と説く
少智は小法を楽って 自ら作仏せんことを信ぜず
是の故に方便を以て 分別して諸果を説く
復三乗を説くと雖も 但菩薩を教んが為なりと
舎利弗当に知るべし 我聖師子の
深浄微妙の音を聞いて 喜んで南無仏と称す
復是の如き念を作す 我濁悪世に出でたり
諸仏の所説の如く 我も亦随順して行ぜんと
是の事を思惟し已って 即ち波羅奈に趣く
諸法寂滅の相は 言を以て宣ぶ可からず
方便力を以ての故に 五比丘の為に説きぬ
是れを転法輪と名づく 便ち涅槃の音
及以阿羅漢 法僧差別の名あり
久遠劫より来 涅槃の法を讃示して
生死の苦永く尽くすと 我常に是の如く説きき
阿羅漢(あらかん) サンスクリット arhan
の音写。応供(おうぐ)と漢訳される。尊敬される人、供養するに値する聖者という意味。小乗仏教の修行者たる声聞(しょうもん)の最高位。
○顕一
△人一
[真読]
舎利弗当知 我見仏子等 志求仏道者 無量千万億
咸以恭敬心 皆来至仏所 曾従諸仏聞 方便所説法
[訓読]
舎利弗当に知るべし 我仏子等を見るに
仏道を志求する者 無量千万億
咸く恭敬の心を以て 皆仏所に来至せり
曾て諸仏に従いたてまつって 方便所説の法を聞けり
△理一
[真読]
我即作是念 如来所以出 為説仏慧故 今正是其時
舎利弗当知 鈍根小智人 著相慢者 不能信是法
今我喜無畏 於諸菩薩中 正直捨方便 但説無上道
[訓読]
我即ち是の念を作さく 如来出でたる所以は
仏慧を説かんが為の故なり 今正しく是れ其の時なり
舎利弗当に知るべし 鈍根小智の人
著相・慢の者は 是の法を信ずること能わず
今我喜んで畏なし 諸の菩薩の中に於て
正直に方便を捨てて 但無上道を説く
△行一
[真読]
菩薩聞是法 疑網皆已除 千二百羅漢 悉亦当作仏
[訓読]
菩薩是の法を聞いて 疑網皆已に除く
千二百の羅漢 悉く亦当に作仏すべし
○歎法希有
[真読]
如三世諸仏 説法之儀式 我今亦如是 説無分別法
諸仏興出世 懸遠値遇難 正使出于世 説是法復難
無量無数劫 聞是法亦難 能聴是法者 斯人亦復難
譬如優曇華 一切皆愛楽 天人所希有 時時乃一出
聞法歓喜讃 乃至発一言 則為已供養 一切三世仏
是人甚希有 過於優曇華
[訓読]
三世諸仏の 説法の儀式の如く
我も今亦是の如く 無分別の法を説く
諸仏世に興出したもうこと 懸遠にして値遇すること難し
正使世に出でたもうとも 是の法を説きたもうこと復難し
無量無数劫にも 是の法を聞くこと亦難し
能く是の法を聴く者 斯の人亦復難し
譬えば優曇華の 一切皆愛楽し
天人の希有にする所として 時時に乃し一たび出ずるが如し
法を聞いて歓喜し讃めて 乃至一言をも発せば
則ち為れ已に 一切三世の仏を供養するなり
是の人甚だ希有なること 優曇華に過ぎたり
○不虚
[真読]
汝等勿有疑 我為諸法王 普告諸大衆 但以一乗道
教化諸菩薩 無声聞弟子 汝等舎利弗 声聞及菩薩
当知是妙法 諸仏之秘要
[訓読]
汝等疑あることなかれ 我は為れ諸法の王
普く諸の大衆に告ぐ 但一乗の道を以て
諸の菩薩を教化して 声聞の弟子なし
汝等舎利弗 声聞及び菩薩
当に知るべし是の妙法は 諸仏の秘要なり
〓衆敦信
[真読]
以五濁悪世 但楽著諸欲 如是等衆生 終不求仏道
当来世悪人 聞仏説一乗 迷惑不信受 破法堕悪道
有慙愧清浄 志求仏道者 当為如是等 広讃一乗道
舎利弗当知 諸仏法如是 以万億方便 随宜而説法
其不習学者 不能暁了此 汝等既已知 諸仏世之師
随宜方便事 無復諸疑惑 心生大歓喜 自知当作仏
[訓読]
五濁の悪世には 但諸欲に楽著せるを以て
是の如き等の衆生は 終に仏道を求めず
当来世の悪人は 仏説の一乗を聞いて
迷惑して信受せず 法を破して悪道に堕せん
慙愧清浄にして 仏道を志求する者あらば
当に是の如き等の為に 広く一乗の道を讃むべし
舎利弗当に知るべし 諸仏の法是の如く
万億の方便を以て 宜しきに随って法を説きたもう
其の習学せざる者は 此れを暁了すること能わじ
汝等既已に 諸仏世の師の
随宜方便の事を知りぬ 復諸の疑惑なく
心に大歓喜を生じて 自ら当に作仏すべしと知れ
妙法蓮華経巻第一
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