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妙法蓮華経見宝塔品第十一
◎塔現之相 (塔現ずるの相)
爾時仏前。有七宝塔。高五百由旬。縦広二百五十由旬。従地涌出。住在空中。種種宝物。而荘校之。五千欄楯。龕室千万。無数幢幡。以為厳飾。垂宝瓔珞。宝鈴万億。而懸其上。四面皆出。多摩羅跋栴檀之香。充・世界。其諸幡蓋。以金銀。瑠璃。ィゥ。碼碯。真珠。ォ瑰。七宝合成。高至四天王宮。
爾の時に仏前に七宝の塔あり。高さ五百由旬、縦広二百五十由旬なり。地より涌出して空中に住在す。種種の宝物をもって之を荘校せり。五千の欄楯あって龕室千万なり。無数の幢幡以て厳飾となし、宝の瓔珞を垂れ宝鈴万億にして其の上に懸けたり。四面に皆多摩羅跋栴檀の香を出して、世界に充遍せり。其の諸の幡蓋は金・銀・瑠璃・・・・碼碯・真珠・・瑰の七宝を以て合成し、高く四天王宮に至る。
◎諸天供養 (諸天の供養)
三十三天。雨天曼陀羅華。供養宝塔。余諸天龍夜叉。乾闥婆。阿修羅。迦楼羅。緊那羅。摩、羅伽。人非人等。千万億衆。以一切華香。瓔珞。幡蓋。妓楽。供養宝塔。恭敬尊重讃歎。
三十三天は天の曼陀羅華を雨して宝塔に供養し、余の諸天・龍・夜叉・乾闥婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅・摩・羅伽・人非人等の千万億衆は、一切の華・香・瓔珞・幡蓋・妓楽を以て宝塔に供養して、恭敬・尊重・讃歎したてまつる。
◎多宝称歓 (多宝の称歓)
爾時宝塔中。出大音声。歎言善哉善哉。釈迦牟尼世尊。能以平等大慧。教菩薩法。仏所護念。妙法華経。為大衆説。如是如是。釈迦牟尼世尊。如所説者。皆是真実。
爾の時に宝塔の中より大音声を出して、歎めて言わく
善哉善哉、釈迦牟尼世尊、能く平等大慧・教菩薩法・仏所護念の妙法華経を以て大衆の為に説きたまう。是の如し、是の如し。釈迦牟尼世尊所説の如きは皆是れ真実なり。
◎時衆驚疑 (時衆の驚疑)
爾時四衆。見大宝塔。住在空中。又聞塔中。所出音声。皆得法喜。怪未曾有。従座而起。恭敬合掌。却住一面。
爾の時に四衆、大宝塔の空中に住在せるを見、又塔の中より出したまう所の音声を聞いて皆法喜を得、未曾有なりと怪み、座より而も起って恭敬合掌し、却って一面に住す。
◎大楽説問 (大楽説の問)
爾時有菩薩摩訶薩。名大楽説。知一切世間。天人阿修羅等。心之所疑。而白仏言。
爾の時に菩薩摩訶薩あり、大楽説と名く。一切世間の天・人・阿修羅等の心の所疑を知って、仏に白して言さく、
○一問何因有此塔
世尊。以何因縁。有此宝塔。
世尊、何の因縁を以てか此の宝塔あって
○二問何故塔従
従地涌出。
地より涌出し、
○三問何故発是音声
又於其中。発是音声。
又其の中より是の音声を発したもう。
◎如来答釈 (如来の答釈)
爾時仏告。大楽説菩薩。
爾の時に仏、大楽説菩薩に告げたまわく、
○答第二問
此宝塔中。有如来全身。乃往過去。東方無量千万億。阿僧祇世界。国名宝浄。彼中有仏。号曰多宝。其仏本行菩薩道時。作大誓願。若我成仏。滅度之後。於十方国土。有説法華経処。我之塔廟。為聴是経故。涌現其前。為作証明。讃言善哉。
此の宝塔の中に如来の全身います。乃往過去に、東方の無量千万億阿僧祇の世界に、国を宝浄と名く、彼の中に仏います、号を多宝という。其の仏本菩薩の道を行ぜし時、大誓願を作したまわく、
若し我成仏して滅度の後、十方の国土に於て法華経を説く処あらば、我が塔廟是の経を聴かんが為の故に、其の前に涌現して、為に証明と作って、讃めて善哉といわん。
○答第一問
彼仏成道已。臨滅度時。於天人大衆中。告諸比丘。我滅度後。欲供養。我全身者。応起一大塔。
彼の仏成道し已って、滅度の時に臨んで天人大衆の中に於て、諸の比丘に告げたまわく、我が滅度の後我が全身を供養せんと欲せん者は、一の大塔を起つべし。
○答第三問
其仏以神通願力。十方世界。在在処処。若有説法華経者。彼之宝塔。皆涌出其前。全身在於塔中。讃言善哉善哉。大楽説。今多宝如来塔。聞説法華経故。従地涌出。讃言善哉善哉。
其の仏神通願力を以て、十方世界の在在処処に若し法華経を説くことあれば、彼の宝塔皆其の前に涌出して、全身、塔の中に在して讃めて善哉善哉と言う。大楽説、今多宝如来の塔、法華経を説くを聞きたまわんが故に、地より涌出して讃めて善哉善哉と言う。
◎請見多宝 (多宝を見んと請う)
是時大楽説菩薩。以如来神力故。白仏言世尊。我等願欲。見此仏身。
是の時に大楽説菩薩、如来の神力を以ての故に、仏に白して言さく、世尊、我等願わくは此の仏身を見たてまつらんと欲す。
◎応集分身 (応に分身を集むべし)
仏告大楽説菩薩摩訶薩。是多宝仏。有深重願。若我宝塔。為聴法華経故。出於諸仏前時。其有欲以我身。示四衆者。彼仏分身諸仏。在於十方世界説法。尽還集一処。然後我身。乃出現耳。大楽説。我分身諸仏。在於十方世界。説法者。今於当集。
仏、大楽説菩薩摩訶薩に告げたまわく、是の多宝仏深重の願います。若し我が宝塔、法華経聴かんが為の故に諸仏の前に出でん時、其れ我が身を以て四衆に示さんと欲することあらば、彼の仏の分身の諸仏十方世界に在して説法したもうを、尽く一処に還し集めて、然して後に我が身乃ち出現せんのみ。大楽説、我が分身の諸仏十方世界に在って説法する者を、今当に集むべし。
◎楽説請集 (楽説集めたまえと請う)
大楽説。白仏言世尊。我等亦願。欲見世尊。分身諸仏。礼拝供養。
大楽説、仏に白して言さく、世尊、我等亦願わくは世尊の分身の諸仏を見たてまつり礼拝し供養せんと欲す。
◎放光遠召 (光を放って遠く召す)
爾時仏放。白毫一光。即見東方。五百万億。那由他。恒河沙等。国土諸仏。彼諸国土。皆以頗黎為地。宝樹宝衣。以為荘厳。無数千万億菩薩。充満其中。ェ張宝幔。宝網羅上。彼国諸仏。以大妙音。而説諸法。及見無量千万億菩薩。ェ満諸国。為衆説法。南西北方。四維上下。白毫相光。所照之処。亦復如是
爾の時に仏白毫の一光を放ちたもうに、即ち東方五百万億那由他恒河沙等の国土の諸仏を見たてまつる。彼の諸の国土は皆頗黎を以て地とし、宝樹・宝衣を以て荘厳として、無数千万億の菩薩其の中に充満せり。遍く宝幔を張って宝網上に羅けたり。彼の国の諸仏、大妙音を以て諸法を説きたもう。及び無量千万億の菩薩の、諸国に遍満して衆の為に法を説くを見る。南・西・北方・四維・上下、白毫相の光の所照の処も亦復是の如し。
◎諸仏同来 (諸仏同じく来る)
爾時十方諸仏。各告衆菩薩言。善男子。我今応往。娑婆世界。釈迦牟尼仏所。竝供養多宝如来宝塔。
爾の時に十方の諸仏、各衆の菩薩に告げて言わく、
善男子、我今娑婆世界の釈迦牟尼仏の所に往き、竝に多宝如来の宝塔を供養すべし。
◎国界厳浄三変土田 (国界を厳浄す)
三変土田
○初変娑婆
時娑婆世界。即変清浄。瑠璃為地。宝樹荘厳。黄金為縄。以界八道。無諸聚落。村営城邑。大海江河。山川林薮。焼大宝香。曼陀羅華。ェ布其地。以宝網幔。羅覆其上。懸諸宝鈴。唯留此会衆。移諸天人。置於他土。是時諸仏。各将一大菩薩。以為侍者。至娑婆世界。各到宝樹下。一一宝樹。高五百由旬。枝葉華果。次第荘厳。諸宝樹下。皆有師子之座。高五由旬。亦以大宝。而校飾之。爾時諸仏。各於此座。結跏趺坐。如是展転。ェ満三千世界。而於釈迦牟尼仏。一方所分之身。猶故未尽。
時に娑婆世界即ち変じて清浄なり。瑠璃を地として宝樹荘厳し、黄金を縄として以て八道を界い、諸の聚落・村営・城邑・大海・江河・山川・林薮なく、大宝の香を焼き、曼陀羅華を遍く其の地に布き、宝の網幔を以て其の上に羅け覆い、諸の宝鈴を懸けたり。唯此の会の衆を留めて、諸の天人を移して他土に置く。是の時諸仏、各一りの大菩薩を将いて以て侍者とし、娑婆世界に為到って各宝樹の下に至りたもう。一一の宝樹高さ五百由旬、枝葉華果、次第に荘厳せり。諸の宝樹下に皆師子の座あり、高さ五由旬。亦大宝を以て之を校飾せり。爾の時に諸仏、各此の座に於て結跏趺坐したまう。是の如く展転して三千大千世界に遍満せり。而も釈迦牟尼仏の一方所分の身に於て、猶故未だ尽きず。
○次変八方二百那由佗
時釈迦牟尼仏。欲容受所。分身諸仏故。八方各更変。二百万億。那由他国。皆令清浄。無有地獄。餓鬼。畜生。及阿修羅。又移諸天人。置於他土。所化之国。亦以瑠璃為地。宝樹荘厳。樹高五百由旬。枝葉華果。次第厳飾。樹下皆有。宝師子座。高五由旬。種種諸宝。以為荘校。亦無大海江河。及目真隣陀山。摩訶目真隣陀山。鉄圍山。大鉄圍山。須弥山等。諸山王。通為一仏国土。宝地平正。宝交露幔。ェ覆其上。懸諸幡蓋。焼大宝香。諸天宝華。ェ布其地。
時に釈迦牟尼仏、所分身の諸仏を容受せんと欲するが故に、八方に各更に二百万億那由他の国を変じて、皆清浄ならしめたもう。地獄・餓鬼・畜生及び阿修羅あることなし。又諸の天人を移して他土に置く。所化の国亦瑠璃を以て地とし宝樹荘厳せり。樹の高さ五百由旬、枝葉華果、次第に厳飾せり。樹下に皆宝の師子座あり、高さ五由旬。種々の諸宝以て荘校とす。亦大海・江河及び目真隣陀山・摩訶目真隣陀山・鉄圍山・大鉄圍山・須弥山等の諸山の王なく、通じて一仏国土となって宝地平正なり。宝をもって交露せる幔遍く其の上に覆い、諸の幡蓋を懸け、大宝の香を焼き、諸天の宝華遍く其の地に布けり。
○重変八方二百那由佗
釈迦牟尼仏。為諸仏当来坐故。復於八方。各変二百万億。那由他国。皆令清浄。無有地獄。餓鬼畜生。及阿修羅。又移諸天人。置於他土。所化之国。亦以瑠璃為地。宝樹荘厳。樹高五百由旬。枝葉華果。次第荘厳。樹下皆有。宝師子座。高五由旬。亦以大宝。而校飾之。亦無大海江河。及目真隣陀山。摩訶目真隣陀山。鉄圍山。大鉄圍山。須弥山等。諸山王。通為一仏国土。宝地平正。宝交露幔。ェ覆其上。懸諸幡蓋。焼大宝香。諸天宝華。ェ布其地。爾時東方釈迦牟尼仏。所分之身。百千万億那由他。恒河沙等。国土中諸仏。各各説法。来集於此。如是次第。十方諸仏。皆悉来集。坐於八方。
爾時一一方。四百万億。那由他国土。諸仏如来ェ満其中。
釈迦牟尼仏、諸仏の当に来り坐したもうべきが為の故に、復八方に於て、各二百万億那由他の国を変じて、皆清浄ならしめたもう。地獄・餓鬼・畜生及び阿修羅あることなし。又諸の天人を移して他土に置く。所化の国亦瑠璃を以て地とし宝樹荘厳せり。樹の高さ五百由旬、枝葉華果、次第に荘厳せり。樹下に皆宝の師子座あり、高さ五由旬。亦大宝を以て之を校飾せり。亦大海・江河及び目真隣陀山・摩訶目真隣陀山・鉄圍山・大鉄圍山・須弥山等の諸山の王なく、通じて一仏国土となって宝地平正なり。宝をもって交露せる幔遍く其の上に覆い、諸の幡蓋を懸け、大宝の香を焼き、諸天の宝華遍く其の地に布けり。
爾の時に東方の釈迦牟尼仏の所分の身の百千万億那由他恒河沙等の国土の中の諸仏、各各に説法したまえる此に来集せり。是の如く次第に十方の諸仏皆悉く来集して、八方に坐したもう。爾の時に一一方の四百万億那由他の国土に諸仏如来其の中に遍満したまえり。
◎与欲開塔 (開塔を与欲す)
○諸仏問訊与欲
是時諸仏。各在宝樹下。坐師子座。皆遣侍者。問訊釈迦牟尼仏。各齎宝華満掬。而告之言。善男子。汝往詣。耆闍崛山。釈迦牟尼仏所。如我辞曰。少病少悩。気力安楽。及菩薩声聞衆。悉安穏不。以此宝華。散仏供養。而作是言。彼某甲仏。与欲開此宝塔。
諸仏遣使。亦復如是。
是の時に諸仏各宝樹下に在して師子座に坐し、皆侍者を遣わして釈迦牟尼仏を問訊したもう。各宝華を齎ち掬に満てて、之に告げて言わく、
善男子、汝耆闍崛山の釈迦牟尼仏の所に往詣して我が辞の如く曰せ、少病少悩、気力安楽にましますや。及び菩薩・声聞衆悉く安穏なりや不やと。此の宝華を以て仏に散じ供養して、是の言をなせ、彼の某甲の仏此の宝塔を開かんと与欲すと。
諸仏使を遣わしたもうこと亦復是の如し。
[解説]
耆闍崛山(ぎしゃくせん) 霊鷲山(りょうじゅせん)のこと。王舎城(ラジギール)にある小高い山。サンスクリット原語を音写すると耆闍崛山となり、漢訳すれば鷲峰となる。山の形から鷲峰となったとも言われる。
○釈迦開塔
爾時釈迦牟尼仏。見所分身諸仏。悉已来集各各坐於。師子之座。皆聞諸仏。与欲同開宝塔。即従座起。住虚空中。一切四衆。起立合掌。一心観仏。於是釈迦牟尼仏。以右指開。七宝塔戸。出大音声。如却關鑰。開大城門。
爾の時に釈迦牟尼仏、所分身の諸仏悉く已に来集して、各各に師子の座に坐したもうを見わし、皆諸仏の同じく宝塔を開かんと与欲したもうを聞こしめして、即ち座より起って虚空の中に住したもう。一切の四衆起立合掌し、一心に仏を観たてまつる。
是に釈迦牟尼仏右の指を以て七宝塔の戸を開きたもう。大音声を出すこと、關鑰却けて大城の門を開くが如し。
○四衆皆同見聞
即時一切衆会。皆見多宝如来。於宝塔中。坐師子座。全身不散。如入禅定。又聞其言。善哉善哉。釈迦牟尼仏。快説是法華経。我為聴是経故。而来至此。爾時四衆等。見過去無量。百千万億劫。滅度仏。説如是言。歎未曾有。以天宝華聚。散多宝仏。及釈迦牟尼仏上。
即時に一切の衆会、皆多宝如来の宝塔の中に於て師子座に坐したまい、全身散ぜざること禅定に入るが如くなるを見、又其の、善哉善哉釈迦牟尼仏、快く是の法華経を説きたもう、我是の経を聴かんが為の故に而も此に来至せりと言うを聞く。
爾の時に四衆等、過去の無量百千万億劫に滅度したまいし仏の、是の如き言を説きたもうを見て、未曾有なりと歎じ、天の宝華聚を以て多宝仏及び釈迦牟尼仏の上に散ず。
○二仏並坐
爾時多宝仏。於宝塔中。分半座与。釈迦牟尼仏。而作是言。釈迦牟尼仏。可就此座。即時釈迦牟尼仏。入其塔中。坐其半座。結跏趺坐。
爾の時に多宝仏、宝塔に中に於て、半座を分ち釈迦牟尼仏に与えて、是の言をなしたまわく、釈迦牟尼仏此の座に就きたもうべし。即時に釈迦牟尼仏其の塔中に入り、其の半座に坐して結跏趺坐したもう。
○四衆請加
爾時大衆。見二如来。在七宝塔中。師子座上。結跏趺坐。各作是念仏坐高遠。唯願如来。以神通力。令我等輩。倶処虚空。
爾の時に大衆、二如来の七宝塔中の師子座上に在して結跏趺坐したもうを見たてまつり、各是の念をなさく、
仏高遠に坐したまえり。唯願わくは如来、神通力を以て我が等輩をして倶に虚空に処せしめたまえ。
◎大声に唱募す
即時釈迦牟尼仏。以神通力。接諸大衆。皆在虚空。以大音声。普告四衆。誰能於此。娑婆国土。広説妙法華経。今正是時。
即時に釈迦牟尼仏、神通力を以て諸の大衆を接して皆虚空に在きたもう。大音声を以て普く四衆に告げたまわく、
誰か能く此の娑婆国土に於て広く妙法華経を説かん。今正しく是れ時なり。
◎明付嘱時至 (付嘱の時至る)
如来不久。当入涅槃。
如来久しからずして当に涅槃に入るべし。
◎明付嘱有在 (付嘱の有在)
仏欲以此。妙法華経。付属有在。
仏、此の妙法華経を以て付属して在ることあらしめんと欲す。
爾時世尊。欲重宣此義。而説偈言
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、
聖主世尊 雖久滅度 在宝塔中 尚為法来
諸人云何 不勤為法 此仏滅度 無央数劫
処処聴法 以難遇故 彼仏本願 我滅度後
在在所往 常為聴法
聖主世尊 久しく滅度したもうと雖も
宝塔の中に在して 尚お法の為に来りたまえり
諸人云何ぞ 勤めて法の為にせざらん
此の仏滅度したまいて 無央数劫なり
処処に法を聴きたもうことは 遇い難きを以ての故なり
彼の仏の本願は 我滅度の後
在在所往に 常に法を聴かんが為にせん
又我分身 無量諸仏
如恒沙等 来欲聴法 及見滅度 多宝如来
各捨妙土 及弟子衆 天人龍神 諸供養事
令法久住 故来至此 為坐諸仏 以神通力
移無量衆 令国清浄 諸仏各各 詣宝樹下
如清涼池 蓮華荘厳 其宝樹下 諸師子座
仏坐其上 光明厳飾 如夜闇中 然大炬火
身出妙香 ェ十方国 衆生蒙薫 喜不自勝
譬如大風 吹小樹枝 以是方便 令法久住
又我が分身 無量の諸仏
恒沙等の如く 来れる法を聴き
及び滅度の 多宝如来を見たてまつらんと欲して
各妙土 及び弟子衆
天人龍神 諸の供養の事を捨てて
法をして久しく住せしめんが 故に此に来至したまえり
諸仏を坐せしめんが為に 神通力を以て
無量の衆を移して 国をして清浄ならしむ
諸仏各各に 宝樹下に詣りたもう
清涼池の 蓮華荘厳せるが如し
其の宝樹下の 諸の師子座に
仏其の上に坐したまいて 光明厳飾せること
夜の闇の中に 大なる炬火を然せるが如し
身より妙香を出して 十方の国に遍じたもう
衆生薫を蒙って 喜自ら勝えず
譬えば大風の 小樹の枝を吹くが如し
是の方便を以て 法をして久しく住せしむ
◎挙三仏以勧流通 (三仏を挙げて流通を勧む)
告諸大衆 我滅度後 誰能護持 読誦斯経
今於仏前 自説誓言 其多宝仏 雖久滅度
以大誓願 而師子吼 多宝如来 及与我身
所集化仏 当知此意 諸仏子等 誰能護法
当発大願 令得久住 其有能護 此経法者
則為供養 我及多宝 此多宝仏 処於宝塔
常遊十方 為是経故 亦復供養 諸来化仏
荘厳光飾 諸世界者 若説此経 則為見我
多宝如来 及諸化仏
諸の大衆に告ぐ 我が滅度の後に
誰か能く 斯の経を護持し読誦せん
今仏前に於て 自ら誓言を説け
其れ多宝仏 久しく滅度したもうと雖も
大誓願を以て 師子吼したもう
多宝如来 及与我が身
集むる所の化仏 当に此の意を知るべし
諸の仏子等 誰か能く法を護らん
当に大願を発して 久しく住することを得せしむべし
其れ能く 此の経法を護ることあらん者は
則ち為れ 我及び多宝を供養するなり
此の多宝仏 宝塔に処して
常に十方に遊びたもう 是の経の為の故なり
亦復 諸の来りたまえる化仏の
諸の世界を 荘厳し光飾したもう者を供養するなり
若し此の経を説かば 則ち為れ我
多宝如来 及び諸の化仏を見たてまつるなり
◎挙難持法勧流通 (難持の法を挙げて流通を勧む)
六難九易
○正挙勧
△誡勧発願 (誡めて発願を勧む)
諸善男子 各諦思惟
此為難事 宜発大願
諸の善男子 各諦かに思惟せよ
此れは為れ難事なり 宜く大願を発こすべし
△説経難 (説経の難)
諸余経典 数如恒沙
雖説此等 未足為難 若接須弥 擲置他方
無数仏土 亦未為難 若以足指 動大千界
遠擲他国 亦未為難 若立有頂 為演説衆
無量余経 亦未為難 若仏滅後 於悪世中
能説此経 是則為難
諸余の経典 数恒沙の如し
此等を説くと雖も 未だ難しと為すに足らず
若し須弥を接って 他方の
無数の仏土に擲げ置かんも 亦未だ難しとせず
若し足の指を以て 大千界を動かし
遠く他国に擲げんも 亦未だ難しとせず
若し有頂に立って 衆の為に
無量の余経を演説せんも 亦未だ難しとせず
若し仏の滅後に 悪世の中に於て
能く此の経を説かん 是れ則ち難しとす
△書持難 (書持の難)
仮使有人 手把虚空
而以遊行 亦未為難 於我滅後 若自書持
若使人書 是則為難
仮使人あって 手に虚空を把って
以て遊行すとも 亦未だ難しとせず
我が滅後に於て 若しは自らも書き持ち
若しは人をしても書かしめん 是れ則ち難しとす
△持読難 (暫読の難)
若以大地 置足甲上
昇梵於天 亦未為難 仏滅度後 於悪世中
暫読此経 是則為難
若し大地を以て 足の甲の上に置いて
梵天に昇らんも 亦未だ難しとせず
仏の滅度の後に 悪世の中に於て
暫くも此の経を読まん 是れ則ち難しとす
△説法難 (説法の難)
仮使劫焼 擔負乾草
入中不焼 亦未為難 我滅度後 若持此経
為一人説 是則為難
仮使劫焼に 乾たる草を担い負うて
中に入って焼けざらんも 亦未だ難しとせず
我が滅度の後に 若し此の経を持って
一人の為にも説かん 是れ則ち難しとす
△聴受難 (聴受の難)
若持八万 四千法蔵
十二部経 為人演説 令諸聴者 得六神通
雖能如是 亦未為難 於我滅後 聴受此経
問其義趣 是則為難
若し八万 四千の法蔵
十二部経を持って 人の為に演説して
諸の聴かん者をして 六神通を得せしめん
能く是の如くすと雖も 亦未だ難しとせず
我が滅後に於て 此の経を聴受して
其の義趣を問わん 是れ則ち難しとす
△奉持経難 (持経の難)
若人説法 令千万億
無量無数 恒沙衆生 得阿羅漢 具六神通
雖有是益 亦未為難 於我滅後 若能奉持
如斯経典 是則為難
若し人法を説いて 千万億
無量無数 恒沙の衆生をして
阿羅漢を得 六神通を具せしめん
是の益ありと雖も 亦未だ難しとせず
我が滅後に於て 若し能く
斯の如き経典を奉持せん 是れ則ち難しとす
阿羅漢(あらかん) サンスクリット arhan の音写。応供(おうぐ)と漢訳される。尊敬される人、供養するに値する聖者という意味。小乗仏教の修行者たる声聞(しょうもん)の最高位。
△釈難持意 (難持の意)
我為仏道 於無量土
従始至今 広説諸経 而於其中 此経第一
若有能持 則持仏身
我仏道を為て 無量の土に於て
始より今に至るまで 広く諸経を説く
而も其の中に於て 此の経第一なり
若し能く持つことあるは 則ち仏身を持つなり
○釈勧意 (勧の意を釈す)
諸善男子 於我滅後
誰能受持 読誦此経 今於仏前 自説誓言
此経難持 若暫持者 我即歓喜 諸仏亦然
如是之人 諸仏所歎 是則勇猛 是則精進
是名持戒 行頭陀者 即為疾得 無上仏道
能於来世 読持此経 是真仏子 住淳善地
仏滅度後 能解其義 是諸天人 世間之眼
於恐畏世 能須臾説 一切天人 皆応供養
諸の善男子 我が滅後に於て
誰か能く 此の経を受持し読誦せん
今仏前に於て 自ら誓言を説け
此の経は持ち難し 若し暫くも持つ者は
我即ち歓喜す 諸仏も亦然なり
是の如きの人は 諸仏の歎めたもう所なり
是れ則ち勇猛なり 是れ則ち精進なり
是れを戒を持ち 頭陀を行ずる者と名く
則ち為れ疾く 無上の仏道を得たり
能く来世に於て 此の経を読み持たんは
是れ真の仏子 淳善の地に住するなり
仏の滅度の後に 能く其の義を解せんは
是れ諸の天人 世間の眼なり
恐畏の世に於て 能く須臾も説かんは
一切の天人 皆供養すべし
妙法蓮華経巻第四
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